Jahn-Teller 分子である C6H6 カチオン
と C6H6 アニオンを取り上げ、
振電相互作用(電子格子相互作用)定数を、Gegeralized Restricted Hartree-Fock(GRHF)法
と Complete Active Space Self-Consistent-Field(CASSCF)法
で得られた波動関数を用いて、振電相互作用の電子演算子の行列要素として計算している。
C6H6 カチオンの振電相互作用定数は、過去の実験値と良く一致している
(C6H6 アニオンの振電相互作用定数は報告されていない)。
振電相互作用の局所的な描像を与える振電相互作用密度解析を用いて、
電子構造と振動構造の観点から振電相互作用の大きさを考察している。
カチオンにおいては、C-C 結合上に大きな変位を
有する e2g(2), e2g(3) 振動モードは C-C 結合上の
電子と相互作用するため、振電相互作用定数が大きい。
一方、アニオンの Singly Occupied Molecular Orbital(SOMO)は反結合性であるため、
アニオンでは C-C 結合上の電子密度が大きく減少する。
このために、e2g(2), e2g(3) 振動モードでは、
カチオンと比較してアニオンの振電相互作用定数が極端に小さくなる。
しかしながら、C-H伸縮である e2g(4) 振動モードは C-C 結合上の電子とほとんど相互作用しないために、
アニオンとカチオンで振電相互作用定数にそれほど差が出ない。
これらの結果は、振電相互作用が核の変位の方向だけでなく、
フロンティア電子密度(SOMO)にも大きく依存することを示している。
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